活動レポート

三島の“味わい方”が詰まった手書き地図、「ミシマ買い食いMAP」

2013年12月16日

三島にククルク(cucurucu)というカフェがある。駅からほど近く、通りに面した大きなガラスが特徴で、ここに出入りするのは地元のクリエイターをはじめ、近所のおばさまに東京などから訪れる若者までと、とにかく幅広い。そんな、「“伊豆、ときどき南米”の手作りカフェ」を標榜するこのお店には、周辺の小さなお店の情報から編んだ「ミシマ買い食いMAP」があり、最近はテレビで取り上げられるなど、にわかに注目度が上がっている。

結論から言えば、この「ミシマ買い食いMAP」の面白さは、そのまま店主・桐澤さんの人的魅力だと言っていい。いわゆる行政的な町おこしとは異なる、「町本来の日常と資源」に向けられた、鋭く厳しくそして優しい属人的な町への視点。そしてその視点から地図として編み込まれた、三島に住んでいなければわからない情報の数々。自身を「女性のわりには地図好きな方」だと評する彼女が考える手書き地図について、お話を伺ってきた。

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▼ククルクというお店がホンキで考える「三島の味わい方」

自分が暮らし働く町のいいところを、自分の視点と言葉で伝える。面白い場所だったり、美味しいお店だったり、綺麗な景色だったり、地元に暮らす人として自慢できる「ここスゴいんです!」という情報を、自分の町を訪れてくれた人と共有したい。そんな思いが、地図というツールに“縛りも遠慮もなく”表現されているところが、いわゆる観光マップとは異なる手書き地図としての大きな魅力だろう。

中でも「真のB級グルメとは」というテーマから編み出されたのが、「ミシマ買い食いMAP」だ。企画・編集を行う
ククルク(cucurucu)の店主、桐澤さんは言う。

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「ブームにあやかって開発されたB級グルメが、本当のB級グルメだと言えるのか、ちょっと疑問なんです。確かにその材料は三島でとれるものかもしれない。でも、昔から地元で愛されてきた食べ物って、他にもあるんじゃないのかなって思うんですよね」

三島は、市として観光に力を入れている。三嶋大社や源兵衛川のホタルといった強力な観光資源を持つこの土地を訪れる観光客は、年間を通して少なくはない。おそらくその多くが「設計された旅行」をしていて、よそよそしく町を歩き、地元の人とのコミュニケーションも希薄なまま、自分の住む町へ帰っていく。もちろん“地元で愛されているB級グルメ”を口にすることは、ないだろう。

「だから、お店に来たお客さんには、(おせっかいかもしれないけど)せっかくだからココに行ってみてって、この地図を渡すんです(※)。ぶらりと地元の日常を味わってもらえる、+アルファの情報も添えて

隙間なく組まれた旅行計画がいいとは限らない。計画性がないことをネガティブにとらえるのではなく、だからこそ突然や偶然の「ご縁」を楽しむことができる「未設計という名の余白」があるのだと、ポジティブにとらえる。これこそが、「観光旅行」ではなく「旅」を楽しむ心得であり、本当の三島を「味わう」極意なのだと言えるだろう。

(※)現在は、一部200円で販売しているとのことです!

▼きっかけは、友人の企画の「オマケ」から!

ところで、この「ミシマ買い食いMAP」のもともとの起源が面白い。
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桐澤さんの友人、山根大地さんが主催するイベント「cucurucu集合cucurucu解散しか決まってない三島の旅」が、2013年5月に行われた。主催者は、何の情報も与えない。まずはこのお店に集まる。あらかじめ行く場所を決めて調べたり、いわゆるガイドの類を見ない。土地勘のない人の視点で町をブラブラ歩いて、気になったらそのお店に入っちゃう、という企画。とはいえ、食べるところとかまったく情報がないのも…と、桐澤さんと山根さんは相談を重ねる。

「地元の惣菜屋さんとか、ブラブラしながら買い食いできる小さいお店を、もともとまとめたいと思っていたので」という桐澤さんの思いと一致し、いわばこの企画の参加特典(オマケ)として作ったのが「ミシマ買い食いMAP」のきっかけなのだそう。

ここ数年で定着しつつある、開発前提の町おこし的なものやB級グルメに対する根本的な違和感も手伝って、もとからある町の資源=小さなお店を主役にする方向へ、明確に舵をとったわけだ。そんな中、ぼくが一番感じ入ったことは、この地図のお店紹介にククルク自体の情報を入れていないということ。企画している自らのお店については名称のみの表記にとどめ、地図中では詳しく説明しないところに、自らの手柄を主張せずに町全体の利益を尊ぶ姿勢を感じずにはいられなかった。

▼「話を聞かない男、地図が読めない女」からの気づき

話は、その地図を使う側、つまり「読み手」についても及んだ。

「話を聞かない男、地図が読めない女」という十年以上前に流行った本を引き合いに、男女の気持ちや行動の違いになぞらえながら、作り手が伝えたいことと読み手が欲しいことのギャップについて、話はおおいに盛り上がった。特に、この取材にドライブをかけたのが、ふと桐澤さんの口から飛び出した「人の話を聞かない人は、地図も読めないって思うんですよね」という持論。なるほど、けだし名言である。ぼくらに強い印象を残したこの言葉には、手書き地図の魅力が示唆されているように思う。

地図とは、何しろ膨大な、あるいは、特定的なテーマに基づいた情報が可視化されたもの。特に手書き地図は、書き手の個人的なフィルターを通して内容が偏ること自体が魅力なのであり、そもそも汎用的にはならない上に、好き嫌いがハッキリする。そうした地図を読むという行為は、すなわちその地図の作者と「対話」することに他ならない。「対話」ができない相手には、いくら「良い」情報が載っている地図を見せても、そのよさを受けとめてくれないだろう。相手側が自分の知っている情報を一方的に話して、地図を介したコミュニケーションにならずに終わってしまう。

たとえば、「せっかく三島に来たので、行っておくべき地元の人が通う店を教えてください!」という問いに対する答えが、「ミシマ買い食いMAP」にはある。桐澤さんだからこそ差し出せる「おすすめフィルター」をパスしたお店。地図を読むこととは、その問いに対して答えをもらうことに等しいのだ。

▼自分のお店と地図を活かした「旅の作戦会議」プラン

桐澤智子さんは広告代理店勤務を経て、三島にお店を構えるに至った。地域では名の通ったカフェで、地元の面白い人たちと組んでワークショップを開催したり、クリエイターのオリジナルグッズを扱うなど、その活動領域は「カフェ」だけにとどまらない。むしろ、ここを軸にしながら、さまざまなプロジェクトを企てて、地域に問いかけている。「小皿元キウイ」としてコミックエッセイなども行っている彼女が考える、次なる展開は興味深い。

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「おしゃれなカフェを紹介するような雑誌やガイドブックは、すでに世の中にたくさんあります」という彼女が注目しているのが、老若男女を問わないような、たとえば“純喫茶”をテーマにした地図。おしゃれなカフェとはまた異なる味わい深い喫茶店や、閉めたら二度と味わえないような古びたお店をテーマにした手書き地図が、近いうちにククルクに並ぶのかもしれない。そしてもうひとつが、「旅の作戦会議」なるもの。朝食付きで、その日のスケジュールの相談にのってくれるらしい。

「三島にノープランで来て、まずはククルクで朝食を摂る。そして、滞在中の“作戦”を立てる相談にのるとか、いいかなと思っています」

なるほど、先にプランを買うのが「旅行」なのだとすれば、現地に来てからプランを買うのが「旅」なのかもしれない。利用者は、ククルクで相談にのってもらいながら、「地図+解説付き」で差し出された情報に身を委ねる。汎用的な旅行ガイドに頼らない、リアルな現地体験ツアー。その時に威力を発揮するのが、きっと手書き地図なのに違いない。

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もともと三島の隣りに位置する沼津の、さらには山側出身の彼女。高校時代は強豪ボート部に所属し、伊豆半島を北流することで知られる狩野川をホームにしていた。「キツ過ぎて、所属したことをいまだに後悔しているくらい(笑)」と冗談っぽく言いながら、当時を懐かしむように話してくれた優しい表情に、「ミシマ買い食いMAP」の魅力の源泉を感じた取材となった。

取材・文・写真 大内 征(手書き地図推進委員会 研究員)

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レポート:大内 征

投稿日:2013年12月16日

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